小型スピーカーをつかったニアフィールドリスニングをすれば、コンサートホールで聴いているようなヴァーチャルリアリティの世界がひろがり、音楽に感動できます。

和田博巳著『ニアフィールドリスニングの快楽』(ステレオサウンド)では、小型スピーカーをつかったニアフィールドリスニングをすすめています。




著者の和田博巳さんはつぎのようにのべています。


私は当時リスニングルーム(6畳間)を縦長方向で使っていた。で、ある日のこと、スピーカーまでの距が2メートル以上あったところを1・5メートルまで近づいて聴いてみたら、音がいっそうよくなったと感じられたのだ。もうひとつ、次の経験は現在のリスニングルームに移ってからだが、最初はスピーカーを縦長配置で使っていたのを、石井伸一郎さんの勧めで横長配置に変更してみた。すると、こちらも驚くほど音は変化した、もちろん、いい方向に。そういった経験から導き出されるのは、部屋を横手方向に使って近接して聴くと、とてもいいということである。こういう聴き方だと、音楽に浸りきることができる、音楽に抱かれているという悦びが得られる。音楽を対象化して冷静に聴くのではなく、音楽と自分が一体化した快感を得ることができる。これがニアフィールドリスニングの快楽である。


すなわち6畳間のリスニングルームを横長でつかい、スピーカーにおもいきってちかづいて聴いてみたら、音楽にひたりきり、音楽にだかれているというよろこびがあり、そして音楽と一体化した快感がえられたという体験です。これがニアフィールドリスニングの快楽です。


■スピーカーのちかくで聴く
リスニングポイントとスピーカーとの距離はおよそ1〜2メートルにします。ただし何メートルでなければいけないといったことはありません。1メートル以下でもかまいません。なるべくちかくでもっともよい位置をさがしてください。

たとえば3畳の部屋では、スピーカーまでの距離が1メートル以下になるでしょう。あるいは6畳間の場合、普通は縦長につかうところを横手方向に使用します。

たとえひろい部屋であったとしても、一度、コンパクトにセッティングしてぐっとちかづいて聴いてみましょう。音楽のディテールがいっそうこまやかに、音場感がゆたかになります。部屋が特にせまい必要はないのです。


■ 小型スピーカーがいい
スピーカーの理想の形態は小型スピーカーです。音像のまとまりや定位のよさをかんがえると、スピーカーは点音源にちかいほどよいわけです。大型スピーカーでは点音源にはなりません。小型スピーカーは大型スピーカーの代用では決してありません。

同軸型のすぐれた中高域ドライバー(あるいは中域と高域が非常に接近したドライバー)にウーファーをくわえたスピーカーもいいです。音像を小さくむすぶことができるスピーカーです。 

小型スピーカーをスピーカースタンドにのせると、スピーカーが空中にポッと浮かんだ状態になります。小さなスピーカーの点音源から、ひろいサウンドステージとフォーカスした音像定位が容易にえられます(注1)。

小型スピーカーは、低音の姿形や音色を概してとても正確につたえます。写真でいうと、隅々までフォーカスがビシッと合っていて気持ちがいいという感じです。

現代の小型スピーカーのなかには、小型スピーカーの利点を生かしつつ、大型スピーカーに負けないゆたかな表現力をそなえるものがあらわれてきています。

またアンプもよくなってきているので、アンプの高性能によって小型スピーカーの不利な部分(たとえば低音)がおぎなわれるようになってきています。A級、AB級、D級、真空管式かということではなくて、いいものはいいという理由だけでアンプをえらぶことができるようになりつつあります。


■ コンパクトにセッティングする
サウンドステージをできるだけ広大に、低音楽器を機敏にかつ伸びやかに再生するには、スピーカーの周りは何もないほうがいいです。オーディオラックは部屋の横のほう、音をさえぎらないところにおきます。小型スピーカーをつかっているならこのようなことも容易です。

うまくセッティングされたピーカーは近接して聴いたとき、ダイレクトでかつこまやかな音を聴かせ、音場もゆたかになります。

たとえば1メートル強というニアフィールドで聴いた場合はヘッドフォン状態にかなりちかく、スピーカーの外側にまで広大にひろがる音場感を体感できるでしょう。

これまでは誰もが大型スピーカーが好きでした。大型システムにあこがれていました。しかしシステムは大きくなればなるほどコントロールがむずかしくなります。こっちをなおせばあっちがだめ。あっちをかえたらバランスがくずれたなど、あちこちいじりまくっているうちに泥沼にはまってしまうことがよくありました。あるいはせまい部屋に大型スピーカーを無理にいれて、まともな音場や定位がえれれないということもありました。

大型から小型へ。いまこそ発想の転換がもとめられています。


■ おどろくべきヴァーチャルリアリティの世界
ニアフィールドリスニングをしてみるとその音場のひろがりにおどろかされます。ステレオ感とは左右の音のひろがりのみにあらず、後方にもそして上下にもひろがるということが実感できます。ステージが眼前にまさに出現します。たった3畳の部屋でも、そこが、ライヴハウスやコンサートホールに変身します。これはおどろくべきヴァーチャルリアリティの世界です。

 
また繊細で瑞々しく、反応の速い音もあいまって音楽により集中しやすくなります。

かぎられた住環境の中でも努力すれば、オーディオ的喜びが存分に味わえる素晴らしい世界がそこにあります。

深々とした音場や気配、きわめて微妙なニュアンスまでもらさず聴きとろうとするなヴァーチャルリアリティの世界に酔いしれます。1枚のディスクからこれまで聴いたことのないような音を聴いてしまうと、次々と愛聴盤を引っ張り出して聴きたくなります。

すぐれた歌手の歌声や、すぐれた演奏とその楽器の奏でる実体感が濃密にたちあらわれたとき、わたしたち聴き手は感動することができます。しかし歌や演奏がきれいに聴こえても、それが実体感の薄いものであれば、音質がいくらよくても感動できません。


■ 心ゆくまでやりきる
スピーカーとの距離はちかくてたのしめるというのではなく、実は、ちかいほうがいっそうたのしいのです。スピーカーからはなれて聴くと感動もそれにつれてはなれていってしまいます。

スピーカーが大きくないことや、近接して聴くことを恥じることももちろんありません。「部屋がせまいのだから仕方がない」とつぶやいてしまったら、「この程度でいいか」でおわってしまいます。

部屋のひろさにかかわらず、スピーカーの選択とセッティングによって、ハイエンドの世界を十分に堪能することができます。ニアフィールドリスニングはハイエンドオーディオの代用ではありません。うまくやれば、こっちのほうが感動できるのです。

皆さん、ニアフィールドリスニングを心ゆくまでやり切ってください。


■ ステップアップ
録音現場では、ほとんどのエンジニアが仕事の90%を小型モニタースピーカーでこなしています。定位や音場感のチェックには小さなニアフィールドモニターのほうがはるかに適しているからです。小型スピーカーでニアフィールドリスニングするのは、録音の意図をよく聴きとるリスニングスタイルといって間違いありません。壁に埋めこまれた大型モニターでは音場の広がり具合がまったくわかりません。

プロの録音現場がこのような状況ですから、自宅のリスニングルームでも小型スピーカーでニアフィールドリスニングをするのは自然ななりゆきです。

是非、小型スピーカーを買ってください。なお販売店に行ってスピーカーを選択するとには優秀録音盤ばかりでなく、パッとしない音のCDも持参した方がよいです。優秀録音盤は優秀な音がするので、パッとしない音でもスピーカーをチェックした方がよいとおもいます。

また将来的にはマルチチャンネルも検討してみてください。部屋の壁や天井がとりはらわれたようになり、スニングルームが広大なスタジオに化けます。あるいは広大なライヴハウスにもコンサートホールにもなります。こんな夢のような話が現実となります。

またアクティブ・サブウーファーもいいです。これは、部屋の条件(低域特性)にこまかくあわせこむことができつかい、とても勝手がいいです。ローパスフィルターのカットオフポイントを50Hzから150Hzの間で任意に設定できるし、サブウーファーのレベルも調整できます(注2)。

スモールシステムではじめればステップアップも容易です。




和田博巳著『ニアフィールドリスニングの快楽』(SS選書)は解説書というよりも、ニアフィールドリスニングをめぐるエッセイ集です。ウィットにとんだ話、ためになる体験談、興味ぶかい機器、オーディオの歴史など、読んでいておもしろいです。一読をおすすめします。


▼ 注1
デスクトップ・オーディオからまずははじめて、しばらくしたらスピーカースタンドを購入してステップアップするというのもよいでしょう。スピーカースタンドは、専用のものを購入するのが無難でありベストです。専用スタンドはそのスピーカーにあわせて開発・チューニングされています。スタンドもスピーカーの一部です。またスピーカースタンドに下にはオーディオボードをおくとよいです。

▼ 注2
従来の小型スピーカー(ブックシェルフ型スピーカー)の弱点は低音があまりでないことでした。しかし近年、低音がよくでる小型スピーカーが発売されるようになってきました。それでも低音がたりないと感じたならば、サブウーファーを追加すればよいのです。簡単なことです。あるいは曲によってサブウーファーをオンにしたり、オフにしたりすることもできます。小型スピーカーからはじめればステップアップも容易です。

しかしもし大型のフロアー型スピーカーを買ってしまったら、低音がですぎるからといってウーファーを調整したりすることはできません。融通がきかないのです。

▼ 参考文献
和田博巳著『ニアフィールドリスニングの快楽』(SS選書)、ステレオサウンド、2012年11月1日