比較試聴を集中的におこなうとそれぞれの機器の性能や個性がわかってきます。デノン、ヨシノトレーディング、マランツ、エソテリックなどのブースをまわりました。
2018年11月16日〜18日に、2018 東京インターナショナルオーディオショウが東京国際フォーラムで開催されました。国内外あわせて190をこえるオーディオ・ブランドの出展があり、個性あふれるさまざまなオーディオ機器を比較試聴しながら音楽をたのしむことができました。



デノン・ブース

デモ機
  • レコードプレーヤー:DENON DP-400
  • プリメインアンプ:DENON PMA-800NE
  • スピーカー:DALI OPTICON 6
  • CD プレーヤー:DENON:DCD-SX1
  • プリメインアンプ:DENON PMA-SX1
  • スピーカー:DALI EPICON 6
  • CD プレーヤー:DENON DCD-2500NE
  • プリメインアンプ:DENON PMA-2500NE
  • スピーカー:DALI EPICON 2

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DALI のスピーカーはひとことでいうとカジュアルなスピーカーです。音楽そのものを一般家庭でたのしむためのスピーカーであり、リビングルームやテレビの横にぽんとおくだけでここちよい音楽が部屋中にひろがります。比較的 音がくっきりしているので音量をしぼってもよくきこえ、集合住宅や夜の時間帯でも音楽がたのしめます。

音色はあかるく、オーボエの音がソプラノサックスのように、女性ボーカルはますますかがやかしく、ハープはもう最高です。どのような音源をもってきても最高級の楽器がつかわれているようにきこえます。

音質はくっきりはっきり、音の輪郭が明瞭でこまかい音まできこえるので、はじけるようなリズムが気持ちいいです。DALI でピアノ曲をきいてください。あかるくたのしくうつくしく、音がとびはねていきます。音の濁りもまったく感じられません。

響きもいいです。エンクロージャーがうまく響いています。湾曲したエンクロージャーがよけいな定在波をなくし、きれいな響きをひきだしています。

DALI の音づくりは実に音楽的です。「DALI サウンド」といってもよいでしょう。

これと好対照なスピーカーは、原音忠実型の B&W や MAGICO や YG ACOUSTICS のようなスピーカー、あるいはいわゆるモニタースピーカーです。原音忠実型の高解像スピーカーは、プレーヤーやアンプやケーブルのくみあわせ、スピーカーのスパイク、オーディオボード、セッティングなどのすべてが音に反映されます。かちっと神経質にならざるをえないことがおおいです。

これに対して DALI は雰囲気重視・音楽重視のスピーカーであり、遊び(ゆとり)があって、一般の音楽ファンむけのスピーカーです。むずかしいことをかんがえる必要はまったくありません。

比較的くっきりはっきりした あかるくたのしい音で音楽そのものをたのしみたい方に DALI のスピーカーをおすすめします。

わたしが今回 試聴したのは、トールボーイ型の DALI OPTICON 6(希望小売価格 134,000/円1本)と DALI EPICON 6(希望小売価格 571,429円/1本)、ブックシェルフ型の DALI EPICON 2 (希望小売価格 209,524円/1本)です。ニアフィールドリスニングあるいは12畳以下の比較的せまいルームできくのでしたらブックシェルフ型の DALI EPICON 2 をおすすめします。音像定位がすばらしく、音場も自然です。低音も十分にでます。トールボーイ型は、もっとひろいルーム用です。大きなスピーカーをせまいルームでならすと音像はぼやけ、音場も不自然、低音もふくらみすぎます。DALI EPICON 2 のほうがよいでしょう。


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 ※ 価格表示は、スピーカー1本の場合とペアの場合とがありますので注意してください。





ヨシノトレーディング・ブース

デモ機
  • CD プレーヤー:EAR Acute Classic
  • アナログレコードプレーヤー:clearaudio
  • オープンリールデッキ(テープデッキ):DENON DH-710F
  • プリアンプ:EAR 912
  • パワーアンプ:EAR 509 mk II
  • スピーカー:Falcon Acoustics LS3/5a

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ここはプロ用機材ばかりでした。スピーカーは、Falcon Acoustics LS3/5a を試聴しました。

一聴した瞬間、さきほどの DALI の世界とはがちがいます。これは原音を忠実に再現するモニタースピーカーです。

音質はくっきり はっきりしていて音ぬけがよく、音の色づけはなくて透明感があり、音のたちあがりのスピード感もいいです。高域と低域のレンジもひろく、ちいさなエンクロージャー、密閉型スピーカーとはおもえないほどおどろくほど低域がのびます。音像定位もすばらしく、ナチュラルで無理のない音場がひろがります。ニアフィールドリスニングにも最適です。

みかけはレトロでチープな感じですが、現代に通用する高性能ハイファイスピーカーです。木製のエンクロージャーには適度な響きがあり、音に艶もあるので一般家庭で音楽をたのしむためにもつかえます。こんな不思議なスピーカーはほかにありません。

LS3/5a とは、英国 BBC のプロ用モニタースピーカーであり、1975年から、BBC がライセンス契約をして、ロジャーズ・スペンドール・ハーベス・KEFなど、いろいろなメーカーが製造にあたりました。LS とは BBC のモニタースピーカーの規格名で、Loudspeaker を意味し、LS3 はスタジオ用小型モニターのことであり、/(スラッシュ)のあとの 5a は開発順をあらわします。

1990年代後半に、部品の供給がおわって製造中止に一旦なりましたが、小型モニタースピーカーのモデル(お手本)であり、人気がたえなかったことから、Stirling Broadcast、その後 Falcon Acoustics などが復刻しました。

復刻モデルも BBC がライセンスした BBC お墨付きのプロ用モニターであり、プロの使用にもたえるように完璧にチューニングされた信頼できるスピーカーです。音のバランスもよく、倍音構造も正確に再現されるので、人間の聴覚の調整により低音もしっかりきこえます。アンサンブルの内声もよくきこえます。

このスピーカーは、「ボイスチェックモニター」とよばれることもあり、歌手の声をそのまま再現できます。たとえばこのみの歌手がいて、ライブにもよくいってその歌手の声を記憶しているとします。もし音の色づけをほどこした雰囲気重視のスピーカーでその歌手の録音再生をきいた場合、「いつもとはちがう」と若干の違和感を感じることがあるかもしれません。あるいは楽器の演奏をするような人で、トランペットとコルネットの音色・音質のちがいがわかる人の場合、雰囲気重視の暖色系スピーカーでは、トランペットがコルネットのようにきこえて違和感を感じることがあるかもしれません。あるいは金管楽器が木管楽器のようにきこえたり、ベルリンフィルもパリ管弦楽団もその他のオーケストラもすべてがウィーンフィルのようにきこえたり、各国のオーケストラの個性が正確に再現されなかったりするかもしれません。

そこでモニタースピーカーの登場です。カラーリングをせず原音を忠実に再現します。歌手の声はそのままに、楽器の音もそのままに再現できます。

したがって音楽家・録音技師といったプロだけでなく、アマチュアでも器楽や声楽をやっている人、音楽に真剣にむきあいたい人、音楽を追究する人、演奏法を研究しながら音楽をたのしみたい人などにおすすめできるスピーカーです。またスピーカーをすでにもっている人でも、サブスピーカーとしてもっていると音の比較のための基準になり、比較試聴がいっそうたのしくなります。

わたしは先日、東京・秋葉原のダイナミックオーディオで Stirling Broadcast 製の LS3/5a をきき、今回は、Falcon Acoustics 製の LS3/5a をききました。どちらも BBC がライセンスしたすばらしいスピーカーですが、解像度のたかさでは Falcon Acoustics 製がまさります。よりこまかい音まできこえ、TAD-ME1 にもせまるハイファイスピーカーです。

希望小売価格は、Stirling Broadcast 製は295,000円/ペア(税抜)、Falcon Acoustics 製は380,000円/ペア(税抜)であり、価格差が音質にあらわれています。

ただし一般家庭で音楽をたのしむのであれば Stirling Broadcast 製で十分だとおもいます。したがってコストパフォーマンスをもとめるのであれば Stirling Broadcast、より高解像・高音質をもとめるのであれば Falcon Acoustics という選択になるでしょう。


STIRLING BROADCAST LS3:5a V2

Falcon Acoustics LS3/5a





マランツ・ブース

マランツ・ブースでは、以下にしめすようにとてもたくさんの機器の試聴をしました。ここまでこまかくいろいろな実験をおこなうブースはめずらしいです。たいへん真面目なブースでした。

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CD プレーヤーききくらべ
  • プレーヤー:marantz CD5005 → CD6006 → ND8006
  • プリメインアンプ:marantz PM-12
  • スピーカー:B&W 603(フロアスタンド型)

CD プレーヤーききくらべ
  • プレーヤー:marantz SA-12 → marantz SA-10
  • プリアンプ:marantz SC-7S2
  • パワーアンプ:CLASSE CA-M600
  • スピーカー:B&W 802 D3PE(フロアスタンド型)

おすすめ CD プレーヤーは今年新発売された marantz SA-12 です。これはいいです。「霧」がはれるといった感じです。今回のデモで、低価格モデルから高価格モデルへ順番にきいてきたのでよくわかりました。marantz ND8006 と marantz SA-12のあいだにはあきらかに「断層」があります。がらっと音質がよくなります。

marantz スタッフの説明によると、marantz SA-12 は、この上位モデルでありフラッグシップである marantz SA-10 と中身はほとんどおなじであり、筐体の部分など、コストカットできる部分を徹底的にコストカットして価格を半額にしたそうです。どうりで音がいいわけです。

最大の特色は、marantz が独自に開発した、オリジナル・ディスクリート DAC「Marantz Musical Mastering(MMM)」を搭載していることです。他社製の市販 DAC(デジタル/アナログ変換器)をつかった場合は、デジタル信号をアナログに変換するためのアルゴリズム(演算)やフィルターのパラメーターの設定、音質に影響するパーツの選択などが自由にできませんが、DAC を自社開発したことにより marantz 独自のすぐれた音づくりが可能になったそうです。DAC のみならず、メカエンジンから出力回路にいたるまでのすべてを自社開発することにより理想のサウンドを実現することができました。

また USB 入力端子をそなえ、USB-DAC 機能をもっているので、お手持ちのパソコンと USB ケーブルで接続して PC オーディオをたのしむこともできます。音楽ストリーミングや YouTube などをたのしむ人もおおいとおもいますのでこれは重要な機能です。つぎのような接続になります。

【パソコン】—(USB ケーブル)—【SA-12】—(スピーカーケーブル)—【スピーカー】

このようなすぐれた DAC をつかわない手はありません。

marantz はかつて、オランダの総合電機メーカーフィリップスの傘下にあった時期があり、フィリップスはソニーとともに CD と CD プレーヤーを開発したメーカーで、DAC の製造もやっていました。わたしもかつて、フィリップスの CD プレーヤーをかったことがあります。その後、marantz はフィリップスから独立、DAC 開発技術者も marantz にうつってきたために DAC の自社開発ができるのだということです。DAC の自社開発ができるというのはおおきな強みです。

SA-10 は、希望小売価格 600,000円(税抜/2016年発売)、SA-12 は 300,000円(税抜)であり価格は、2倍のひらきがありますが音質の差は2倍もなく、SA-12 は SA-10 にせまる高音質です。

したがってコストパフォーマンスをもとめるなら SA-12、予算に余裕があるなら SA-10 という選択になるでしょう。どちらを買っても損はありません。

SA-12 はたへんお買い得なのでこちらを買って、その後、オーディオボードやケーブル、電源などを買いかえながらシステムを徐々にグレードアップしていくという方法もよいでしょう。オーディオの醍醐味があじわえます。人気商品のため在庫切れの店が現在はおおいようですが、ちかぢかまたでてくるとおもいます。


marantz SA-12



プリメインアンプききくらべ
  • プレーヤー:marantz SA-10
  • プリメインアンプ:marantz PM-12 → marantz PM-10 → marantz PM-12 バイアンプ
  • スピーカー:805 D3PE(ブックシェルフ型)

marantz PM-12 が希望小売価格 300,000円(税抜)、marantz PM-10(フラッグシップ)が希望小売価格 600,000円(税抜)ですが、価格の差と性能の差は比例せず、PM-12 は PM-10 にせまる高音質です。とくにブックシェルフ型スピーカーではほとんど差がでません。したがってコストパフォーマンスをもとめるなら PM-12、フロアー型スピーカーなどを大音量でならすことがあるなら PM-10 という選択になるでしょう。

当日のデモでは、marantz PM-12(2台)をバイアンプ接続した場合と、marantz PM-10(1台)との比較試聴もしました。わたしには、marantz PM-12(2台)をバイアンプ接続した場合のほうが高音質にきこえました。こまかい音まできこえ、音像ははっきりし、透明感のある自然な音場がひろがりました。PM-12 の実力がうかがえます。

PM-12は、PM-10 と同様、音質に妥協することなく、これまでのプリメインアンプのサイズの制約をこえた大出力とスピーカー駆動力を実現するために Hypex社製 NCore NC500 スイッチングアンプモジュールを採用しています。キーテクノロジーを PM‐10 から継承し、電気・機構部品の共用や物量軽減によってコストダウンをはかってリーズナブルな価格で高音質を実現しています。スイッチングアンプ(あるいはデジタルアンプ)とよばれることもある新型アンプであり、ながくつかえるモデルです。

marantz スタッフによると、普通のオーディオファンでも手がとどく価格できわめて高品質が提供できるようにとおもって SA-12 と PM-12 開発し、あらゆる努力をして価格を300,000円におさえたということです。SA-12 と PM-12 はたいへんお買い得で、買って損をすることはありません。

marantz の製品は、変な色づけや癖ののないバランスのよいナチュラルな音質が特徴であり、つかいこなしやすい機器です。ユーザーの工夫次第でいろいろなアレンジができるとおもいます。


marantz PM-12



スピーカーききくらべ
  • CD プレーヤー:marantz SA-12
  • レコードプレーヤー:Pro-Ject
  • プリメインアンプ:marantz PM-12
  • スピーカー:B&W 603(フロアスタンド型)、B&W 702 S2(フロアスタンド型)、B&W 705 S2(ブックシェルフ型)、B&W 805 D3(ブックシェルフ型)

スピーカーききくらべ
  • CD プレーヤー:marantz SA-10
  • レコードプレーヤー:Pro-Ject
  • プリメインアンプ:marantz PM-10
  • スピーカー:802 D3PE(フロアスタンド型)、800 D3(フロアスタンド型)

B&W のスピーカーの設計思想は「何も足さない何もひかない」であり、原音を忠実に再現するスピーカーです。よい録音はよく、わるい録音はわるいままで、またプレーヤーやアンプのちがいも音に反映させます。雰囲気を重視したスピーカー(TANNOY、Wharfedale、Vienna Acoustics、FOCAL、DALI など)とは性格がことなります。

音質は硬質で、音のたちあがりもよいので、打楽器、ピアノ、ハープ、ギター、ジャズ、ロックなどがすきな人にむいています。逆に、ヴァイオリンなど、弦楽器がすきな人は購入前に十分に試聴し検討したほうがよいです。弦楽の場合は硬質な音質、ときに金属的な音になってしまうことがあります。

購入するまえに、B&W のスピーカーと TANNOY のスピーカーの比較試聴をするとよいとおもいます。両者の個性、思想のちがいがよくわかります。雰囲気重視のスピーカーですと弦楽が硬質・金属音になることはありません。

今回のデモで、ブックシェルフ型とフロアー型のさまざまなスピーカーを試聴したところ、ブックシェルフ型の小型スピーカーの方がより先鋭的に B&W の個性があらわれることがわかりました。B&W のエンクロージャーは、内部のマトリックス構造により響きをおさえていますが、金属製の MAGICO などとはちがい木製であり、木の響きがいくらかあります。エンクロージャーが大きいと響きもおおくなり、エンクロージャーが小さいと響きもすくなくなります。響きがすくないブックシェルフ型スピーカーでは原音がより忠実に再現されてこまかい音まできこえ、フロアー型スピーカーでは大味な感じになります。

ニアフィールドリスニングや12畳以下のせまいルームでのリスニングのためにはブックシェルフ型がよいでしょう。音像がはっきりし、自然な音場がひろがります。比較的ちいさな音量でも音楽がたのしめます。ブックシェルフ型の B&W 705 S2 や B&W 805 D3 でしたら低音も十分でます。


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フロアー型スピーカーは、12畳をこえるようなおおきな部屋で大音量でならしたときに力を発揮します。せまい部屋にはむきません。

音量と音場には相関があり、小さな音量では音場も小さく、大きな音量では音場も大きくなります。

たとえば NHK 交響楽団は、NHK ホールの巨大空間で大音量で演奏しますが、弦楽四重奏団や室内楽団は、サントリーホールや東京文化会館の小ホールのような比較的ちいさな空間で適度な音量で演奏します。巨大なスピーカーを小さなルームでならすのは、サントリーホールの小ホールに NHK 交響楽団をおしこんで無理やり演奏させるようなもので、よい結果は決してえられません。せまいルームに大型スピーカーをいれている人がときどきいますが音像も音場もあったものではありません。「N響」を小部屋におしこんだりして馬鹿じゃないかとおもいます。スピーカーは、リスニングルームの大きさにあわせて選択されるべきであり、一般的な日本の住宅事情では6畳とか12畳以下のルームがおおいともいますので、その場合には、ブックシェルフ型スピーカーが最適な場合がほとんどです。大型スピーカーは大きなひろいルームで大きな音量で演奏したときに最適になります。スピーカーの大きさ、音量、リスニングルームの大きさ、音場の相関にあらためて心をくばるとよいでしょう。




エソテリック・ブース


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デモ機
  • CD プレーヤー:ESOTERIC Grandioso
  • アンプ:ESOTERIC Grandioso
  • スピーカー:TANNOY Autograph mini/GR  → TANNOY Westminster Royal/GR

TANNOY のスピーカー、PRESTIGE シリーズの最小モデル Autograph mini/GR(希望小売価格 360,000円/ペア(税抜)、2018年6月1日発売)と、同シリーズのトップモデル Westminster Royal/GR(希望小売価格 3,000,000円/1台(税抜)、2013年発売)という、極小スピーカーと極大スピーカーのめずらしい比較試聴ができました。たとえば極小と極大、あるいは個性が極端にことなるスピーカー2台など、すぐれた試聴のやり方として両極端をまずきくという方法があります。両極端がわかれば、中間的な性格のものは両極端のあいだに位置づけて理解することができます。

スピーカー本体の寸法(W×H×D)
  • Autograph mini/GR:209mm×356mm×156mm
  • Westminster Royal/GR:980mm×1,395mm×560mm

今年発売された Autograph mini/GR はすばらしいスピーカーです。さきほどの B&W の空間とはうってかわって、ここは音楽そのものをたのしむ世界です。あたたかくうるわしい音質、あかるく艶のある音色、ゆったりとした気分で音楽がたのしめます。演奏や録音をチェックするというのではなく、音のむこうにいる作曲家の心に接することができる、そんなスピーカーです。

Autograph mini/GR は、TANNOY PRESTIGE シリーズの上位(大型)モデルの廉価版ではなく、別物とかんがえたほうがよいでしょう。エンクロージャーが小さい分、響きは適度であり、きびきびとレスポンスがよく、音の粒だちもいいです。小型スピーカーならではの個性がきわだっています。点音源(同軸2ウェイ)であるために音像も明瞭、自然な音場がみごとにひろがります。ニアフィールドリスニングや12畳以下のせまいルームにおいて最適なスピーカーのひとつといえるでしょう。エンクロージャーのデザインもすばらしく、誰からも愛されるスピーカーです。

つぎに Westminster Royal/GR をききました。みごとな TANNOY サンドを朗々とならします。Autograph mini/GR とは世界がちがいます。

しかし残念ながら会場の関係で、全体的に大味で、音の「風呂」につかっているような感じがしました。ここのエソテリックのルーム(ブース)は、床面積は144平方メートル(およそ87畳)あり、およそ100人の聴衆がはいっています。床面積はそこそこあるのですが、このルームの決定的な問題点は天井の低さにあります(ほかのどのルームもそうです)。ほかのブースでもそうですが、大型スピーカーを大音量でならすと大々的に天井に音が反射して天井からの反射音が気になってしょうがありません。音像も音場もあったものではありません。インターナショナルオーディオショウの会場のほとんどは東京国際フォーラムの会議室をかりており(ごく一部のみが天井の高いホール)、やはりここは、リスニングルームではなくて会議室でしかありません。そして天井の音響対策まではいそがしくてどのブースも手がまわりません。Westminster Royal/GR のような大型スピーカーは、たとえば200〜300人ぐらいがはいるコンサートホールのようなところ、あるいはもっと天井が高いリスニングルームで、大きな音量で演奏したときには十分な力を発揮するとおもいます。

その点、Autograph mini/GR のような小型スピーカーをつかったニアフィールドリスニングでは天井や壁や床の影響をあまりうけないので、よけいな感覚にわずらわされることなく音楽そのものに没入することができます。

このようなことは、あらゆるリスニングルームでいえることです。

さて、TANNOT の PRESTIGE シリーズスピーカーは、さきほどの原音忠実の B&W などとはちがい、雰囲気重視のスピーカーです。

B&W のルームからこちらへうつってくるとなんだかとてもほっとします。リラックスできます。たとえば美術館のなかをあるいていて、写実絵画の部屋から印象派絵画の部屋へはいったとたん、はりつめた緊張感から解放されてリラックスできたというような感じです。

わたしは写実絵画や B&W を否定しているわけではありません。どちらがすぐれているかといことではなく、どちらも必要であり、両者の表現方法がちがうということです。

昨今は、ハイレゾや 4K・8K がはやって音声も画像も高解像度化がいちじるしくすすんでいますが、その一方で、TANNOY や印象派も重要な役割をはたしていることにかわりはありません。くっきりはっきり、几帳面で厳密に、いっさいの無駄をはぶいた効率主義がかえって人間をくるしめることがあります。日本には、過剰なストレスにさいなまれている人々が非常におおいようです。TANNOY をきいてみてください。音楽にいやされてください。


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エソテリック・ブースではほかに、Avantgarde のフラッグシップスピーカー TRIO XD + BASSHORN XD もききました。オルガニスト(ケンバニスト)の塚谷水無子さんがみずからの録音を解説つきで再生していました。

Avantgarde といえばホーン型スピーカーです。その性能はすばらしく、ルーム最後部のセンター位置で立ってきいていましたが、明瞭な音がしっかりと均一にどいていました。力づよく音をおしだしてくるといった感じではなく、つまり感のない爽快な音ぬけのよさが気持ちいいです。

ホーンによる指向性のためか天井の反射の悪影響がすくなく、オルガン曲ということもあって、まるで教会のなかできいているかのような臨場感がありました。教会内部の響きもすっきりと再現し、部屋中がうつくしい音響でみたされ、ヨーロッパやオーストラリアを旅行したときにいった教会をおもいだしました。

ホーン型スピーカーは、ホーンのスロート(のどの部分)で音圧を高め、開口部(マウスともいう)にむけて一定の比率でひろがっていくホーン構造をもつため、能率がとても高いという特徴があります。その反面、指向性がするどくなって、スイートスポット(理想のリスニングポイント)がせまくなることがあるので、指向性をひろげるための工夫がホーン形状にほどこされています。

このような、普段はきくチャンスのない機器で音楽がきけるのもインターナショナルオーディオショウならではのたのしみです。


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アキュフェーズ・ブース

デモ機
  • SA-CD/CDプレーヤー:DP-560
  • FMステレオ・チューナ:T-1200
  • ディジタル・ヴォイシング・イコライザー:DG-58
  • プリメインアンプ:E-480
  • スピーカー:TAD-ME1

TAD-ME1 は、「ありのままの音」を再現するという設計思想をもつ原音忠実型のスピーカーですが、おなじく原音忠実型の B&W などにくらべると音に艶があります。以前、東京・秋葉原にあるオーディオショップ・テレオンの試聴会に参加したら TAD の技術者がきていて、「TAD のほかの機種とおなじではおもしろくないので若干のカラーリングをしています」といっていました。やっぱりそうか!したがって一般家庭で音楽そのものをたのしみたい場合は TAD-ME1 がよいのではないでしょうか。




キソアコースティック・ブース

デモ機
  • CD プレーヤー:アーキュフェイズ DP-750
  • アンプ:PASS
  • スピーカー:Kiso Acoustic HB-N1


メーカーサイト:Kiso Acoustic HB-N1


オーディオ評論家・柳沢功力さんの解説つきで Kiso Acoustic のスピーカー HB-N1 を試聴しました。柳沢さんの試聴方法では、ひとつの楽曲を最後まできちんときき、音楽をフェードアウトしません。これがいいんです。ここでは、物理的に音をチェックするのではなく、音楽をききます。オーディオとは音楽をきくための道具であって、音を検査するための機械ではありません。一般的な試聴会では、ちょうどいい場面にさしかかったところで音楽をフェードアウトする技術者や評論家がおり、興ざめしてしまいます。音楽と機械のどちらが重要なのか、あらためてかんがえていただければとおもいます。

そもそもいい場面でフェードアウトする(いい場面がわかっていない)ということは事前に音楽をきいていない証拠です。こんなことをしているから真の音楽ファンがオーディオをみくだし、音楽ファンとオーディオファンの溝がいつまでもうまらないのです。

またキソアコースティックのブースでは、最初の一音から適切に音量が設定されていて、きもちよく音楽をたのしむことができました。ときどき、ややちいさめの音量でスタートしてからあとで音量を調整する技術者がいますが、適切な音量で最初から演奏しなければ音楽をたのしめず、音楽のはじまりがうまく表現されているかどうかもわかりません。

一流の演奏家は、最初の一音から完璧です。二流の演奏家は、最初の音は「置きにいく」ことがおおく、二音目からよい演奏をします。アマチュア演奏家は三発目もだめです。

演奏家が発する最初の音をただしく表現できるかどうかはオーディオ機器にとっても とても重要なポイントです。つよいアタック、弱音、やわらかい音、かがやかしい音、透明な音・・・、音楽のはじまりは実にさまざまです。オーディオ機器の実力の一端が最初の音にあらわれます。

Kiso Acoustic HB-N1 は上質な小型スピーカーでした。ややせまいリスニングルームをルームチューニングして、小型スピーカーをただしくセッティングして、適切な音量で音楽をきくと、とてもすぐれた臨場感が生じます。これは、おどろくべきバーチャルリアリティといってもよいでしょう。下手な大型システムでは決してえられない体験です。

倍音構造が適切に表現されているため、小型スピーカーであっても、人間の聴覚の調整により低音も十分にきこえます。大きなスピーカーをつかって ぼかすか大音量でならすのとはちがう世界がひろがります。ここは大人の空間です。とてもリッチな時間をすごせました。






適切な音量

そのほかに、TAD、ノア、フォステックス、ラックスマン、ハイエンドなどのブースもまわりました。

インターナショナルオーディオショウ全般にいえることとして、とくに大型スピーカーをならしている場合、インパクトを来場者にあたえようとするためか、一般的な音量よりも大きな音量でならしていることがおおいです。

おなじオーディオ機器であっても、小音量のときよりも音量をやや大きくしたときのほうがよくきこえます。音量を大きくするだけで、それまでにはきこえなかった音がきこえてきます。あたりまえのことです。しかし一般的な日本の住宅環境ではあまり大きな音はだせないので、試聴をするときには、自宅でだせる音量を考慮にいれる必要があります。試聴会場ではいい音がしたとおもったのに、自宅では、大きな音がだせないためにろくな音がしないということはよくあることです。

自宅でだせる音量の上限を考慮して、比較的ちいさな音量でもよくきこえる機器をえらぶか、あるいは自宅の防音対策をして大きな音をだせるようにするかしなければなりません。リスニングルームの状況や改善もつねにかんがえてください。

こうした観点からは、小型スピーカーをつかったニアフィールドリスニングでしたら、大音量にそれほどしなくても音楽が十分にたのしめます。周囲に迷惑もかけません。たとえば低音がたりないとおもったら、スピーカーにもっとちかづいてきいてください。低音だけでなく、いままで以上に音楽がリアルにきこえてきます。こんな簡単なことで音質をアップすることができます。

またインターナショナルオーディオショウのいくつかのブースでは、フロアー型スピーカーや大型スピーカーを大音量でがんがんならしていて、まるで洞窟のなかで音をきいているようなブースがいくつかありました。これはいただけません。会場の天井がひくいこともおおきく影響しています。この「洞窟現象」は、インターナショナルオーディオショウでおこりやすい独特の現象です。大音量の「洞窟」のなかに長時間いると難聴にもなりかねません。適切な音量、ルームチューニングなどにも心をくばるとよいでしょう。




解像度と質感のバランス

わたしは先日、アマチュア写真家たちの風景写真展をみました。

会場をあるいていて1枚の写真が印象にのこりました。冬の山中湖と富士山を撮影した風景写真でした。くっきりはっきり、輪郭が明瞭な景色がうつっており、どこまでもすきとおった透明感が、湖の冷たさや山の寒さをみごとにあらわしていました。近年の高解像のカメラをつかうと、こごえるようなクールな世界がみごとに表現できます。

そしてほかの写真みながらしばらくあるいていくと、1枚の写真がまた目にとまりました。これも高解像の写真です。くっきりはっきり、どこまでもすきとおった透明感、とても冷たい感じのする清潔な写真です。ところがよくみると、ミンミンゼミがうつっているではないですか。これは夏でした。

しかし夏の質感がまったく表現されていません。冷たさと夏が干渉しています。暑く湿った夏。生命力がみなぎるエネルギッシュな夏。つよい太陽光線と深緑の夏。高解像の設定のままで、くっきりはっきりした写真をとると、夏が表現できません。

これた似たようなことがオーディオでもいえます。

オーディオも、高解像度化がすすんでいますが、くっきりはっきりだけを追求していると冷たい世界がひろがるだけで音楽がたのしめなくなります。質感の追求もしなければなりません。解像度と質感のバランスがいります。

オーディオは音楽を再生し、音楽を表現するための手段です。音を検査する機械ではありません。音楽家は何を意図し、どのようなメッセージをわたしたちにつたえようとしているのか。それが重要です。解像度と質感のバランスのうえに音楽性がなりたちます。

オーディオ機器を購入するときにも、このようなバランスをつねに念頭においておくとよいでしょう。




小型スピーカーによる空間表現

今回のイベントでさまざまな機器を試聴してきて、臨場感をえるという観点からは、小型スピーカーをつかったスモールシステムがいいとおもいました。

近年の技術革新によって、スピーカーユニットの材質が大きく改善されたため、スピーカーユニット(ウーファー)の口径をそれほど大きくしなくても、従来よりも低い音がだせるようになりました。またアンプの性能も格段によくなってきたので、小型スピーカーの弱点であった低音の少なさは克服されたといってよいでしょう。

大型スピーカーにくらべて小型スピーカーはエンクロージャー(キャビネット)が小さい分、エンクロージャーの振動がすくなく、フロントバッフル(スピーカー前面)などの反射音もおさえられるため、音がにごらず、たかい透明感がえられます。

また小型スピーカーは、点音源あるいは点音源にちかい音源をもつため、にじみのない音像の定位と、立体的にひろがる自然な音場がえられます。スピーカーの存在を強調する大型スピーカーとはちがって、小型スピーカーをつかえば、スピーカーの存在が「消える」感覚が生じやすく、音楽につつみこまれる体験ができます。

スピーカーの周囲(壁・床・天井など)の音の反射も調整しやくす、フロアスタンド型のスピーカーよりもセッティングがはるかに容易であり、どこにおいてもストレスなく音楽をたのしめます。システムとは、大きくなればなるほどコントロールがむずかしくなるものです。12畳以下の比較的せまいルームで音楽をたのしむのでしたら小型スピーカーのほうがよいでしょう。

近年、高音質・高効率が技術革新により実現し、いい音があたりまえになってきたので、今後は、シャープな音像定位や自然な音場といった音楽の空間表現力がもとめられてくるのではないでしょうか。音楽を耳できくだけでなく、音楽空間のなかに没入し、体全体で音楽を感じとり、あるいは音楽と一体になってしまう。それがどんなにすばらしいことか。




バーチャルリアリティ

以前は、音楽を本当にたのしもうとおもったらライブにいくのがあたりまえでした。オーディオは、ライブにはとてもおよばないとかんがえられていました。ところが近年の技術革新によりその常識はくつがえされつつあります。

しかしオーディオ機器がどんなに進歩しても、ライブとオーディオは、別物だとやはりおもいます。オーディオによる音楽再生は、本物の人間が目のまえにいて実際に演奏している現実とはことなります。

たとえば舞台のうえで演じられる演劇は現実です。劇場に演劇をみにいくと、目の前で人間がいままさに演じています。それに対して映画は、事前に撮影したものを編集して再構成したものであり「事実」ではありません。近年は、音響サラウンドなども発達して、バーチャルリアリティのレベルが格段にあがってきていますが、どんなに技術が進歩しても、映画は映画、バーチャルリアリティです。本物の人間が目のまえに今まさにいるわけではありません。演劇と映画は別のジャンルです。

これと似ていていて音楽も、コンサートホールやライブハウスできくライブと、オーディオできく音楽とは別物であり、オーディオによる音楽はバーチャルリアリティです。しかしバーチャルリアリティは いんちき(偽物)というわけではなく、これはこれで芸術の一分野として、オーディオ芸術として確立していくべきものです。映画が、芸術の一分野として確立したのとおなじことです。

このような観点にたつと、オーディオ芸術とはどこまでいっても、どんなに技術が進歩してもバーチャルリアリティであり、それでよいのです。

ライブ(現実)とオーディオ(バーチャルリアリティ)はどこまでいっても別物であり、ライブ(現実)をたのしみたかったらそこにいくか、演奏家(人間)をつれてこなければならず、お金をたくさんかけて高級・大型システムを導入すればライブ(現実)になるということではありません。

いいかえると、たとえばサントリーホールでライブをきいて感動したので、サントリーホールのあの響きを自宅のリスニングルームで再現しようというようなことはやめたほうがよいです。ライブの響きを参考にするのはよいですが、あなたのリスニングルームはあなた自身がつくるべきであり、あなた独自の響きを追求すべきです。それは世界でひとつしかない音響空間であり、あなた自身の音楽表現の場であるのです。コンサートホール(ライブ)とリスニングルーム(バーチャルリアリティ)は別物です。

ひとつの方法は、オーディオで音楽を再生させながら目をとじて音楽をきいてみることです。そしてあなたの音づくり、リスニングルームづくりをはじめてください。「機械くささ」がなくなって、音楽だけがそこにひろがっているようになればバーチャルリアリティのレベルがあがってきたということになります。

このためは、大型のオーディオシステムをつかうようりも、すぐれた小型スピーカーをただしくセッティングして、比較的せまいリスニングルームをよくチューニングしたほうが効果がでる場合がおおいです。スモールシステムのほうが、コントロールとチューニングがはるかに容易です。

バーチャルリアリティのためにはシステムの大きさは関係ありません。予算がたりないから、小型スピーカーやせまいルームで我慢するということでは決してありません。場合によっては、デスクトップオーディオのほうが はるかに高度なバーチャルリアリティがえられます。誤解しないでください。

高級・大型システムをもっているお金持ちをうらやましくおもっている人がときどきいますが、はたして、その人の部屋はすぐれた空間になっているのかどうか? ボーカルの「ビッグマウス」にのみこまれそうになっていないか? そもそもイメージがえがけているのかどうか?

高額商品、大型システム、大音量、ひろい部屋にすればするほど「サントリーホール」にちかづけるというわけでは決してありません。むしろ、音楽そのものはとおざかっていきます。

さいわい、近年の技術革新の恩恵はだれもが享受することができます。比較的低価格の商品のなかにもよくできたものが結構みつかります。音楽で心をゆたかにすることこそが大事です。