ワンポイント録音と TAD & CHORD により、リスニングルームがコンサートホールにかわります。名演がよみがえります。

東京・神田(秋葉原)にあるダイナミックオーディオで開催されたイベント「TAD & CHORD Electronics コラボレーション試聴会」(2018年2月3日)に参加しました。指南役はオーディオ評論家の和田博巳さんでした。

使用機材はつぎのとおりでした。

  • プレーヤー:TAD-D1000MK2
  • CD トランスポート:CHORD BluMk2
  • DA コンバーター:CHORD DAVE
  • プリアンプ:TAD-C2000
  • パワーアンプ:TAD-M2500MK2
  • モノーラルパワーアンプ:CHORD SPM1400MkII
  • スピーカー:TAD-ME1 & TAD-CR1


■ TAD できく

まず、TAD のシステムでききます。スピーカーは TAD-ME1 です。

すばらしい音像定位(空間表現)、演奏家が目の前にいるかのようにステージが前方にひろがります。ひびきもよく、ゆたかな音場がひろがります。ジャズではライブ会場にいるような、クラシックでは、コンサートホールの特等席(S席中央)にすわっているような臨場感があります。

TAD は透明感のある音質で、音源を素直にひきだします。スピーカーの存在を感じさせません。スピーカーが消えます。それどころかリスニングルームも消えます。TAD は個性がないという人がいますが、それはもとめているものがちがうのであり、オーディオをきくのではなく音楽をきく、芸術をたのしむための装置です。目をとじると、目の前で演奏しているかのようなみごとなバーチャルリアリティを体験できます。歴史的名演が再現されます。

つぎにスピーカーをやや大きな TAD-CR1 にかえてきいてみます。TAD-ME1 とまったく同様な音質です。

ただし音像定位はややぼやけてしまいました。TAD-ME1 では、たとえばボーカルは1点から周囲の空間にひろがっていくようでしたが、TAD-CR1 ではボーカルの口が 50 cm ぐらい大きくなってぼやっときこえました。低音の量感はふえましたが、TAD-ME1 でも低音は十分にでていたのでこれ以上の低音は必要ありません。

今回のリスニングルームは 30 畳ぐらいのひろさであり、この程度まででしたら TAD- ME1 のほうが音像定位・音場・臨場感ともによいです。

スピーカーは大きいほうがよいとおもっている人がいますがそれは誤解です。点音源あるいは点音源にちかい小型スピーカーのほうが音像定位が当然シャープになります。以前は、小型スピーカーは低音がでないという問題があったので大型スピーカーがこのまれたということがありましたが、最近のスピーカーとアンプは高性能で、低音が十分にでるのでその問題はありません。30 畳以下の普通のリスニングルームでしたら小型の TAD- ME1 がよいでしょう。

大型スピーカーは非常に大きなリスニングルームできくためのものです。イベントなどで、とても大きなルームでがんがんならす場合には大型スピーカーが必要ですが、イベントで好印象をえたからといってそれを自宅にもってきてもうまくいきません。ルームの大きさがちがうのですから当然です。日本の一般的な住宅事情では小型スピーカーがベストであり、 TAD- ME1 はとくにおすすめできるスピーカーです。


■ TAD と CHORD できく

つぎにスピーカーはそのままで、ほかの機器を CHORD にかえてきいてみます。印象にのこったのは、CD トランスポート CHORD BluMk2 と DA コンバーター CHORD DAVE です。特別なアルゴリズムでアップコンバージョンしているということで、CD でもハイレゾとほぼ同等の高音質がえられます。たくさんの CD をすでにもっている人にとっては重宝する装置です。電子機器を CHORD にかえたらより躍動的にあかるい音質になりました。これはこれでおもしろいとおもいます。わたしも CHORD の DA コンバーター を長年つかっており、定評どおりとても性能がよいです。

ただ自然さをもとめるのであれば、システム全体を TAD で統一したほうがよいとおもいます。TAD は、プレーヤーからスピーカーまでのすべてを自社生産している企業であり、TAD だけで完結するように完璧にチューニングされています。したがってオーディオ機器のさまざまなくみあわせをたのしむ必要がない、オーディオ機器よりも音楽そのものに没頭したいという人は、TAD で統一しておけば絶対に失敗はありません。他方、失敗を覚悟で試行錯誤をしてみたいという人は、CHORD その他のくみあわせを検討してみるとよいでしょう。


■ ワンポイント録音とマルチマイク録音

今回のようなとてもすぐれたシステムできく場合はワンポイント録音の音源がおすすめです。

たとえばオーケストラの場合、指揮者のややうしろにステレオマイクをおいてワンポイントで録音するのがワンポイント録音です。この音源を再生すると音像定位がよく、それぞれの楽器の配置が立体的に再現されます。コンサートホールの特等席できいているような臨場感を味わえます。

これに対してマルチマイク録音では、オーケストラの各楽器の前にマイクをおいて、それぞれの音をあとで編集(ミキシング)して CD などをつくります。バイオリン、チェロ、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ティンパニ・・・、それぞれの音を別々に録音してあとで合成するわけです。

たとえばフルートの前のマイクではフルートの音を録音します。ところがこのマイクは、すぐそばのオーボエやクラリネットなど、その周囲の楽器の音もわずかにひろってしまいます。あるいはバイオリンなどはなれたところの音もごくわずかですがひろってしまいます。はなれた楽器の音はわずかにおくれて録音されます。この「わずか」が音をにごらせてしまいます。さらに、さまざまな音をあとで編集するので音像定位がめちゃくちゃです。オーケストラの各楽器の配置が再現されません。おのずと臨場感は生じません。ライブによくいく人にはこのことがすぐにわかります。

今回の試聴のなかで、グスターボ=ドゥダメル指揮、ロサンゼルス・フィルハーモニックの演奏でベルリオーズ『幻想交響曲』(マルチマイク録音)をききました。しばらくきいていたら鐘の音が中央・最前面でなりました。しかしこの鐘は、とおくからきこえてこなければなりません。鐘の “協奏曲” をやっているのではないのです。これは、音楽のわからない録音技師が作曲家と演奏家を無視して独断でやってしまったことです。そのほか、バイオリンがメロディーを演奏しているのに、バイオリンとおなじところからトランペットがきこえたり、バイオリンの前にティンパニがあらわれたり、音がぐちゃぐちゃにまざっていて音像定位も臨場感もへったくれもありません。マルチマイク録音だとこういうことになります。

あるいは最近発売された、ラトル&ベルリン・フィルのベートーヴェン交響曲全集には、マルチマイク録音の CD 版と、ワンポイント録音の LP レコード版の2種類があります。マルチマイク版では各楽器の音がはっきりくっきりきこえるのですが音像定位はできていません。ワンポイント録音版では、全体のひびきのなかに各楽器の音がとけこんで、バランスよく音楽そのものをきかせてくれます。コンサートホールの特等席できくまさにライブの音であり、臨場感があります。

したがって高性能なシステムできくならワンポイント録音が絶対にいいです。TAD でなくても高性能システムはあります。近年は、技術革新により比較的低価格でも高性能な機器がでてきました。

昔のオーディオ機器は音の解像度がひくかったので、できるだけくっきりはっきりした音源をつくらなければならなかったという事情もあってマルチマイク録音がこのまれました。またマルチマイク録音にしておけばミスがあってもあとで修正できるという技術的利点もありました。


■ 高解像になればいいのか?

最近のオーディオは高解像度化がすすんでいます。高解像になれば、今まできこえなかったこまかい音まできこえるようになります。しかし一方で、わずかな音のにごりや雑音もひろって再生してしまいます。高性能なシステムできくと録音状態がわかってしまいます。

それに対して、解像度があまりたかくない装置ではわずかな雑音は再生されません。ふるい録音、わるい録音でもノイズが気になりません。

たとえばディスプレーでも、4K、8Kと、高解像度化・大画面化が最近すすんでいますが、高級ディスプレーで画質がわるい映像をみると粗がみえてしまいます。従来のディスプレーではみえなかった美人のほくろが高解像度化によってみえてしまうということがおこります。これと似たようなことがオーディオでもおこっています。これは、オーディオのむずかしさでもありおもしろさでもあります。

物事は完璧にやりすぎると、ちょっとしたわずかなずれが気になってきます。“遊び” があったほうが全体的にたのしめます。オーディオも、高性能・高解像であればあるほどよいというわけではないといえるでしょう。


■ 音楽の雰囲気を重視するなら

けっきょく、オーディオに何をもとめるのか? 人によってちがいます。

正面から音楽と対峙して徹底的にききこみたい。音楽に没入したいという人には TAD がおすすめです。

一方で、仕事がおわってつかれて自宅にかえってきて音楽にいやされたい、リラックスしたい、ストレスを解消したいというなら、雰囲気重視のスピーカーを選択すべきです。たとえば TANNOY の PRESTIGE シリーズがあります。音のバランスのいい STIRLING/GR や KENSINGTON/GR がとくにおすすめです。TURNBERRY/GR はバランスが若干くずれているのでおすすめしません。 




番外編として、LP レコードも試聴しました。これがいいんですね。肌にしみいる音質。音楽そのものをたのしめます。理屈では説明できないアナログのすばらしさを再認識しました。ただし相応の機器が必要です。

また印象にのこった演奏としては、ジャニーヌ=ヤンセンのヴァイオリンでヴィヴァルディ『冬』 がありました。ジャニーヌ=ヤンセンが目の前に「あらわれ」、こんなにはげしくきびしい『冬』があったのか。ヴァイオリンと『冬』のイメージをかえるすばらしい演奏でした。ジャニーヌ=ヤンセンをあらためてききなおしました。

今回のイベントは、どの部品がいいとかわるいとか、スペックがどうだとかということではなくて、音楽をいかにたのしむかといった観点がよかったです。

技術屋さんの解説ですと、スペックの説明や専門用語がおおくて素人にはわかりにくいことが多いですが、今回の指南役・和田博巳さんの話は実にわかりやすく、音楽をたのしめました。解説はわかりやすいのが一番です。オーディオのイベントでは指南役も重要です。