バッハを通して、音楽・音響・楽器の歴史をたどることはたのしいことです。さまざまな演奏家、いろいろなスタイルのバッハを再生させてみるとよいでしょう。

『教養としてのバッハ 生涯・時代・音楽を学ぶ14講』は、国立音楽大学で開講された講義「バッハとその時代」の内容を集約したものです。バッハ入門・概論としておすすめします。



バッハは、それ以前の音楽とそれ以後の音楽の敷居に立つ、巨大な分水嶺とみなすことができる。


バッハ(1685-1750)は17世紀のドイツに生まれ、18世紀の前半に活動した作曲家です。当時のドイツはまだ統一されておらず、南方がカトリック、北方がルター派プロテスタントであり、バッハが本拠としたのは中部ドイツのルター派地域でした。


■ 作品目録(VWD)
バッハの作品が整理されて体系的な作品番号が付されたのは死後200年をへた1950年のことです。シュミーダーは、『バッハ作品目録(Bach-Werke-Verzeichis)』(VWDと略称)を完成させ、この番号が標準化されて今日にいたっています。


作品目録と作品分類(14ページから引用)
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■ 楽器と音
バッハがつかった楽器は現代の楽器とは若干ことなり、現代からみるとそれらは古楽器ということになりまうす。詳細は本書をみていただくとして、つかわれた楽器ではなくてつかわれなかった楽器、当時はなかった楽器の代表は何かというとチューバです。

したがってオーディオでバッハの音楽をきくときもチューバの音つまりぶあつい最重低音は必要はありません。重低音により音楽の雰囲気は増しますが、透明感は減退します。バッハの音楽では、透明感があった方が崇高な精神性あるいは天上界を表現できます。ロマン派などにみられる大編成の交響曲とはちがう点に注意してください。



■ 音響空間
バッハの音楽は教会でよく演奏されました。

教会の残響時間は中音域で3〜6秒ぐらいです。たとえば東京にあるサントリーホールの残響時間は中音域で2.1秒ですから、教会の残響時間はとてもながいことがわかります。

音楽は、楽器から放射される直接音のほかに、壁面などからの反射音がくわわり共鳴(場合によっては音のにごり)がおきるので、演奏空間によって響きや音色は大きくことなってきます。

したがってバッハの音楽を演奏するときには、このような残響のながさや音響に注意しなければなりません。教会と現代のホールとでは音響がことなるので演奏のしかたにも工夫が必要です。

同様なことはオーディオによる音楽再生でもいえます。スピーカーから再生される音楽は、録音会場の音響や録音の仕方とともにリスニングルームの音響の影響もうけます。したがってオーディオできく音楽は、演奏会場で生できく音楽とはことなります。生演奏とオーディオの再生音楽とは別物であるとかんがえた方がよいでしょう。具体的には、オーディオの音と実際にきいた音とをおなじにしようという努力はやめて、あなたのリスニングルームにおける独自の音づくり、音楽演奏をめざした方がよいということです。


■  バッハ復興
19世紀初頭までの公開演奏では、演奏されるのは基本的に「現代の」作曲家の作品でした。作品には「賞味期限」のようなものがあり、ふるくなると演奏されなくなるのが普通でした。

しかしその後、「ふるくてもよいものはよい」とかんがえる人々がではじめて「古典の復興」ともいうべき現象がおこりました。こうした流れのなかで「バッハ復興」もおこりました。


19世紀の「バッハ復興」略史
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(183ページから引用)


「古典の復興」の流れは、音楽文化のなかに「クラシック音楽」というあたらしいカテゴリーを生みだすことになりました。そして、ふるい音楽ばかりを演奏するクラシックの演奏会がさかんにひらかれるようになります。そこでは、楽譜はオリジナルなものですが、性能のよい現代の楽器をつかって自分たちの時代にあわせて演奏しようという発想がそだっていきました。

これに対して近年、バッハが生きた当時の楽器をつかって、当時のスタイルで演奏しようといういわゆる古楽もあらわれてきました。21世紀のリスナーにとっては、かえって古楽がとても新鮮に感じられ、新発見も多いという状況になっています。


■ バッハを再生する
オーディオでバッハの音楽を再生するためには、クリアーな音質で音像定位のいい小型スピーカーが最適です。バッハの時代にはチューバはありませんでした。したがって過度な重低音は必要ありません。それよりもむしろ低音にとらわれずぎないことが大切です。またリスニングルームの調整も重要です。

透明感のある立体的な音響空間が再現できれば、あなたのリスニングルームにバッハがよみがえります。崇高な精神性が感じられるかもしれません。

オーディオマニアのなかには重低音にこだわっている人がいますがそれは唯一の道ではありません。固定観念から脱却し、虚飾を排することによって見えてくるあたらしい世界もあるのです。



▼ 参考文献
礒山雅・久保田慶一・佐藤真一編著『教養としてのバッハ 生涯・時代・音楽を学ぶ14講』(叢書ビブリオムジカ)アルテスパブリッシング、2012年4月20日